S&P500など無分配のインデックスファンドで配当が再投資される仕組みを解説するアイキャッチ

「S&P500は配当が出ない」は本当?
52歳が調べた無分配ファンドの再投資の仕組み

「S&P500の投資信託は、配当金が出ませんよ」

証券会社の窓口や営業の場面で、こう言われた経験はないでしょうか。私は52歳でS&P500の投資信託を毎月積み立てていますが、口座に配当金が振り込まれたことは一度もありません。大学生の息子が積み立てているオルカン(全世界株式)も同じです。

結論から言うと、「分配金が出ない」のは事実です。しかし「だから損」はまったくの誤解で、むしろ逆です。配当は消えているのではなく、ファンドの中で再投資され、複利で働き続けています。分配金として受け取った場合にかかる国内の税金(約20.315%)は、売却時まで繰り延べられます。

この記事では、無分配ファンドの仕組みを個別株との違いから整理し、「配当が出ない」という言葉を入口にしたセールストークへの注意点まで、正直に解説します。

この記事の結論

分配金が出ない=損、ではありません。配当はファンドの中で自動的に再投資され、国内の税金を先送りしながら複利で増え続ける仕組みです。長期の資産形成では、この方が有利になるケースが多くなります。

分配金は「出せるのに、出していない」

まず結論です。オルカンやS&P500のインデックスファンド(eMAXIS Slimシリーズなど)は、制度上は分配金を出せる設計になっていますが、設定以来一度も分配金を出していません

理由はシンプルで、分配金を出さない方が投資家にとって有利だからです。ファンドが保有する株式から受け取った配当は、投資家に払い出さず、ファンドの内部でそのまま株式の買い増しに充てられます。

分配金として受け取ると、その時点で約20.315%の税金がかかります(特定口座の場合)。一方、ファンド内部で再投資されれば、この国内課税は売却時まで繰り延べられ、その間は複利で増え続けます。この差が、長期になるほど大きく効いてきます。

なお、「完全に無税」というわけではありません。米国株の配当には米国での源泉徴収(10%)がファンドの段階で引かれています。繰り延べられるのは、あくまで日本国内の課税分です。

POINT

「分配金が出ない」=「配当がもらえなくて損」ではない。配当は基準価額に溶け込み、国内課税が繰り延べられた状態で複利で働いている。

「自動再投資」の正体──主語はあなたではなく運用会社

「配当は自動的に再投資される」とよく言われますが、この言葉は誤解を招きやすいので、正確に説明します。再投資の主語は、あなたではなく運用会社です。あなたの口座で買い付けが起きるわけではありません。

① 配当が発生
ファンドが保有する数百〜数千社の株式が配当を出す
② ファンドの財産に入る
配当金はファンドの信託財産に現金として入る(あなたの口座には来ない)
③ 運用会社が買い増し
その現金で運用会社がさらに株式を買い増す
④ 基準価額が上がる
ファンドの財産が増えた分、1口あたりの価値(基準価額)が押し上げられる

重要なのは、あなたの保有口数は1口も増えないということです。口数はそのまま、1口あたりの価値が配当の分だけ上がる。これが無分配ファンドにおける「再投資」の正しいイメージです。

つまり、オルカンやS&P500の基準価額の上昇には、株価の値上がり分に加えて、この配当の積み重ね分が含まれています。配当は「消えている」のではなく、値上がりの中に溶け込んでいるのです。

少し補足すると、指数には2種類あります。株価の変動だけを追う「プライスリターン指数」と、配当を再投資した前提で計算される「トータルリターン(配当込み)指数」です。オルカンやS&P500の投資信託が連動を目指しているのは後者、配当込みの指数です。ニュースで見るS&P500の数字(プライスリターン)より、実際のファンドの成績が良く見えることがあるのはこのためです。

「見えない配当」の規模感も押さえておきましょう。時期によって変動しますが、S&P500の配当利回りは近年おおむね年1%台で推移しています。年1%前後と聞くと小さく感じますが、これが20年、30年と国内課税の繰り延べを受けながら再投資され続けることで、最終的な資産額に無視できない差を生みます。

個別株と何が違うのか──課税タイミングの比較

この仕組みのメリットは、個別株を自分で持つ場合と比べるとはっきりします。結論は、個別株は「国内課税を受けてから自分で再投資」、投資信託は「国内課税を繰り延べたまま自動で再投資」です。

比較項目 個別株(自分で保有) 投資信託(無分配型)
配当の受取 証券口座に現金で振り込まれる ファンド内部に入り、現金は来ない
課税タイミング 配当のたびに約20.315%課税
(特定口座の場合)
売却まで課税されない
(課税の繰り延べ)
再投資の手間 自分で買い注文を出す
(端数が出て綺麗に買えない)
運用会社が自動で実施
(1円単位まで無駄なく働く)
米国株の源泉徴収 米国10%+日本20.315%の二重課税
(取り戻すには確定申告が必要)
米国10%はファンド段階で徴収
(確定申告の手間はなし)

表のとおり、米国での源泉徴収10%は個別株でも投資信託でも避けられません。差がつくのは、日本国内の約20%の課税がいつ発生するかです。毎年、配当の約2割を国内の税金で削られながら自分で再投資するのと、国内課税を受けないまま自動で再投資され続けるのとでは、20年、30年という期間では無視できない差になります。売却時にはまとめて課税されますが、課税のタイミングを後ろに送れること自体が複利にとって有利に働きます(課税の繰り延べ効果)。

NISAなら配当も非課税なのに、投信が有利な理由

「NISA口座なら個別株の配当も非課税だから、同じでは?」という疑問はもっともです。しかし、2つの点で差が残ります。

1つ目は米国の源泉徴収です。NISAで非課税になるのは日本国内の課税だけで、米国株の配当にかかる米国での10%は引かれたままです。しかもNISA口座では、この10%を取り戻す外国税額控除が使えません。

2つ目はNISAの投資枠です。個別株で受け取った配当を再投資すると、それは新たな買付なのでNISAの投資枠を追加で消費します。一方、ファンド内部での再投資は投資家の買付ではないため、枠を追加で消費しません。非課税枠を効率よく使うという点で、無分配の投資信託に分があります。

▶ 関連:新NISAの非課税の仕組みと旧NISAとの違いを整理した記事はこちら

「どっちがお得?」は土俵が2つ混ざっている

「じゃあ個別株より投資信託の方がお得なの?」という疑問が湧きますが、この比較には実は2つの別々の勝負が混ざっています。分けて考えると整理がつきます。

勝負①:「器」の比較──投資信託 vs 個別株という保有形態

同じ株式に投資するとして、どちらの器で持つか。この勝負なら、配当課税の繰り延べ、分散、手間の少なさの面で投資信託に合理性があると考えています。1本で数千社に分散されるため、1社が倒産しても致命傷になりません。

勝負②:「中身」の比較──市場平均 vs 自分の銘柄選択

市場平均(インデックス)に投資するか、自分で銘柄を選ぶか。プロのファンドマネージャーでも、長期で市場平均に勝ち続けられる人は少数派だという研究が多い、というのが投資の世界の定説です。市場平均を上回る可能性は、下回る可能性と常にセットです。

整理

「資産を増やす目的の長期積立」なら投資信託が理にかなう。一方、「配当という現金の流れが欲しい」「応援したい企業がある」なら個別株にも役割がある。お得かどうかは目的次第。

引き算思考の注意点──投信でも避けられないもの

ここまで投資信託の有利な面を書いてきましたが、当ブログの方針として、良い話だけで終わらせません。無分配のインデックスファンドにも、誤解してはいけない点があります。

暴落は、投資信託でも普通に食らう

S&P500は2022年に約25%下落しました。リーマンショック時には半値近くになった時期もあります。分散されていても、市場全体が下がれば一緒に下がります。投資信託で避けられるのは「暴落」ではなく、「個別銘柄の倒産・大幅下落リスク」と「狼狽して変な売買をしてしまう自分」です。

S&P500を買っても、流行銘柄からは逃げられていない

私自身、個別株をやったら流行の半導体やAI関連に飛びついてしまいそうだという自覚があり、それもあって投資信託を選んでいます。ただ、正直に言うと、S&P500を買っても半導体・AIから逃げられているわけではありません

S&P500は時価総額加重の指数なので、上位にはまさにその流行銘柄が集中しています。上位企業だけで指数のかなりの割合を占め、その中身はAI・半導体関連が中心です。「S&P500に毎月積立」は、知らないうちにAI関連銘柄へ相当な比重で投資しているのと同じです。

では意味がないかというと、そうではありません。個別株と決定的に違うのは、銘柄の入れ替えが自動だということです。もしブームが弾けて別の産業が台頭すれば、指数は勝手に構成を入れ替えます。「どの銘柄を売って、どこを買うか」をあなたが判断する必要がない。流行の頂点で個別株を掴んで塩漬けにする、という最悪のパターンだけは構造的に回避できます。

「勝手に増える」時期は、永遠には続かない

この10年あまりはS&P500の歴史の中でも特に良い時期でした。しかし過去には、10年運用してもマイナスだった期間が実在します(2000年代の「失われた10年」など)。途中で数年間、横ばいやマイナスが続くことは今後も普通に起こります。そこで「勝手に増えないじゃないか」と積立を止めないこと。むしろ下落中の積立は安く買える仕込みの期間です。

「分配金が出ない」を入口にしたセールストークに注意

冒頭の「S&P500は配当が出ませんよ」という説明に戻ります。この言葉自体は事実です。しかし、対面の金融機関では、この説明を入口に毎月分配型や高分配の商品を勧める話法につながるケースが以前から指摘されています。「毎月お小遣いのように分配金が入る方が嬉しいでしょう?」という流れです。

50代は退職金や相続などまとまったお金が動く年代で、こうした提案を受けやすい立場にあります。知識として押さえておきたいのは次の2点です。

注意

① 毎月分配型は、分配のたびに課税されて複利効果が削がれます。長期の資産形成には不向きというのが、金融庁の資料でも繰り返し示されている考え方です。

② 分配金の中には、運用益ではなく自分が払い込んだ元本が払い戻されているだけのケースがあります(特別分配金・いわゆる「タコ足分配」)。受け取った分だけ基準価額が下がり、資産は増えていません。

「分配金が出ない」は不利の証拠ではなく、複利効率を優先した設計の証拠。この一点を知っているだけで、窓口での会話の受け止め方が変わるはずです。

52歳の私の結論

私がインデックスファンドの積立を続けている理由は、突き詰めると「自分を信用していないから」です。

個別株を自分で選べば、流行のテーマに飛びつき、暴落で狼狽する自分が容易に想像できます。だから、銘柄選択も配当の再投資も売買のタイミングも、すべて仕組みに任せる。流行に乗り降りする判断を、指数に外注しているとも言えます。

正直に言うと、私も最初は「配当が振り込まれないなら、持っている実感がなくて意味がないのでは」と思っていました。しかし仕組みを調べるうちに、「見えない配当が複利で働いている」と腹落ちしてからは、日々の値動きより積立を止めないことを優先できるようになりました。

「配当が出ないから損」ではなく、「配当は見えないところで働いている」。この仕組みを理解した上で、あとは淡々と積み立てを続ける。派手さはありませんが、52歳の私にとって、これが一番再現性の高い方法だと考えています。

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よくある質問

Q. 分配金が出ない投資信託は損なのですか?

A. 損ではありません。株から受け取った配当はファンド内部で再投資され、基準価額の上昇として反映されています。分配金として受け取ると約20.315%の国内課税がかかりますが、内部再投資ならこの課税が売却時まで繰り延べられて複利で増えるため、長期では有利になるケースが多いです。

Q. 分配金が出ないということは、利益が出ていないのでは?

A. これは最も多い誤解です。利益(配当)はきちんと発生しています。ただ、それを現金で配らずにファンド内部で再投資しているだけです。利益が出ているかどうかは、分配金の有無ではなく基準価額の推移で確認できます。

Q. NISA口座なら個別株の配当も非課税なので、同じではないですか?

A. 日本での課税は非課税になりますが、米国株の場合、米国での10%源泉徴収は残り、NISA口座では外国税額控除が使えません。また、受け取った配当を再投資すると新たな買付としてNISAの投資枠を追加で消費します。ファンド内部での再投資は投資家の買付ではないため枠を追加で消費せず、非課税枠の効率という点で差が出ます。

Q. ETF(VOOやVTなど)との違いは何ですか?

A. 一般的なETFは分配金が支払われます。現金収入として配当を受け取りたい人はETF、複利効率を最大化したい資産形成期の人は無分配の投資信託、という使い分けが一般的です。

Q. 毎月分配型の投資信託の方がお得ではないのですか?

A. 毎月分配型は分配のたびに課税されて複利が削がれるうえ、運用益を超える分配では自分の元本が払い戻されているだけの場合があります(特別分配金)。資産形成目的の長期投資には不向きです。

まとめ

最後に、この記事の要点を整理します。

まとめ

・オルカンやS&P500のインデックスファンドは、分配金を「出せるのに出していない」。配当はファンド内部で再投資され、国内課税は売却時まで繰り延べられて基準価額に溶け込んでいる

・個別株は「配当のたびに国内課税→自分で再投資」、投資信託は「国内課税の繰り延べ→自動で再投資」。長期では複利差が積み上がる(米国の源泉徴収10%は両者共通)

・ただし暴落は投信でも食らうし、S&P500は流行銘柄への集中からも逃げていない。避けられるのは「個別銘柄の倒産・大幅下落」と「狼狽売買する自分」

・「分配金が出ない」を入口に毎月分配型を勧められたら要注意。分配金が出ないのは、複利効率を優先した設計の証拠

免責事項

本記事は情報提供を目的としたもので、特定の金融商品の勧誘や投資助言ではありません。記載内容は公開日時点の制度・情報に基づいています。税制・制度は変更される場合があります。投資は元本保証ではなく、最終的な判断はご自身の責任でお願いします。