「年金は早くもらったほうが得」と聞くけれど、本当にそうなのか?
52歳の私が、自分のねんきん定期便の実データ(65歳時点で月17万円・厚生年金満期)をもとに、60歳・61歳・62歳・63歳・64歳・65歳のすべての開始年齢で損益分岐点を計算してみました。
さらに、年下配偶者がいる場合の加給年金(約500万円規模)を加味すると……答えは「配偶者が共働きかどうか」で2つに分かれます。同じ悩みを抱える50代の方に、リアルな計算と判断基準をお伝えします。
目次
1. 繰り上げ受給の基本と減額率
老齢基礎年金・老齢厚生年金は本来65歳から受給開始ですが、60歳から繰り上げて受け取ることができます。ただし繰り上げた分だけ、受給額が一生涯減額されます。
| 受給開始年齢 | 繰り上げ月数 | 減額率 | 月受給額(※) |
|---|---|---|---|
| 60歳 | 60ヶ月 | ▲24.0% | 約12.9万円 |
| 61歳 | 48ヶ月 | ▲19.2% | 約13.7万円 |
| 62歳 | 36ヶ月 | ▲14.4% | 約14.6万円 |
| 63歳 | 24ヶ月 | ▲9.6% | 約15.4万円 |
| 64歳 | 12ヶ月 | ▲4.8% | 約16.2万円 |
| 65歳 | 0ヶ月 | ±0% | 17万円(基準) |
※筆者のねんきん定期便に基づく実額。65歳受給額を月17万円として計算しています。
2. 60〜65歳 全パターンの損益分岐点一覧
「損益分岐点」とは、繰り上げて早くもらい始めた場合と、65歳から受け取った場合の累計受取額が逆転する年齢のことです。
計算の考え方
①65歳時点での累計受取差額(先取り額)を出す → ②65歳以降の毎月の差額で割る → ③65歳に足して損益分岐点を出す、という順番で計算しています。
| 受給開始 | 月受給額 | 65歳までの先取り額 | 65歳との月差額 | 損益分岐点 |
|---|---|---|---|---|
| 60歳 | 約12.9万円 | 約775万円 | 約4.1万円 | 約81歳 |
| 61歳 | 約13.7万円 | 約618万円 | 約3.3万円 | 約81歳 |
| 62歳 | 約14.6万円 | 約466万円 | 約2.5万円 | 約81歳 |
| 63歳 | 約15.4万円 | 約369万円 | 約1.6万円 | 約84歳 |
| 64歳 | 約16.2万円 | 約194万円 | 約0.8万円 | 約85歳 |
| 65歳 | 17万円 | ― | ― | ― |
60〜62歳で繰り上げると損益分岐点は約81歳でほぼ同じ。ところが63〜64歳に繰り上げると84〜85歳まで上がります。「少しだけ早くもらう」が一番損という逆転現象が起きています。
→ どうせ繰り上げるなら、60歳のほうが合理的という結果になりました。
3. 繰り上げのメリット・デメリット
メリット
- 60代に使えるお金が増える
- 体力がある時期にお金を使える
- 再雇用収入と合わせやすい
- 受け取った分を運用に回せる
- 早く亡くなっても損しにくい(81歳より前なら累計で有利)
- 毎月収入がある安心感
デメリット
- 月額が一生涯減額される
- 一度決めたら変更できない
- 長生きすると累計で損になる
- 障害年金への切り替えができなくなる
- 寡婦年金が受け取れなくなる
- 加給年金が消える(重要!)
4. 見落とし厳禁!加給年金で前提が2つに分かれる
繰り上げ受給のデメリットで最も見落とされがちなのが加給年金の消滅です。ただし、そもそも加給年金がもらえる世帯かどうかで結論が大きく変わります。
加給年金とは?
厚生年金に20年以上加入した人が65歳到達時に、年収850万円未満で65歳未満の配偶者がいる場合に上乗せされる年金です。特別加算込みで年額約41万円(月約3.4万円)が加算されます。配偶者が12歳年下なら最大12年間、総額約500万円規模になり得ます。
そこで、繰り上げの損得を2つのケースに分けて考える必要があります。
ケースA:加給年金がもらえる世帯(配偶者の厚年20年未満)
専業主婦や短期パート中心など、配偶者の厚生年金が20年未満の場合は加給年金(約500万円規模)を65歳から受け取れます。この場合、繰り上げると加給年金がまるごと消えるため65歳受給が大きく有利です。
| 受給開始 | 65歳までの先取り額 | 加給年金損失 | 実質差引額 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 60歳 | 約775万円 | △約500万円 | 約275万円プラス | 65歳が有利 |
| 61歳 | 約618万円 | △約500万円 | 約118万円プラス | 65歳が有利 |
| 62歳 | 約466万円 | △約500万円 | 約34万円マイナス | 最初から損 |
| 63〜64歳 | 194〜369万円 | △約500万円 | 大きくマイナス | 最初から損 |
| 65歳 | ― | ― | 加給年金フル受取 | 最有利 |
ケースAの結論
加給年金をもらえる世帯は、繰り上げると約500万円を失います。65歳原則受給が最も合理的です。
ケースB:加給年金がもらえない世帯(配偶者の厚年20年以上)
配偶者がフルタイムで働き続け、厚生年金が20年以上になる共働き世帯では、そもそも加給年金を受け取れない可能性が高いです。この場合は加給年金の損失を考える必要がなく、第2章の純粋な損益分岐点(約81歳)に戻ります。
| 受給開始 | 損益分岐点 | 判定 |
|---|---|---|
| 60歳 | 約81歳 | 60歳・65歳ほぼ互角 |
| 61〜62歳 | 約81歳 | 60歳・65歳ほぼ互角 |
| 63〜64歳 | 84〜85歳 | 中途半端で不利 |
| 65歳 | ― | 基準 |
ケースBの結論
加給年金がもらえない世帯は、損益分岐点が約81歳(平均寿命とほぼ同じ)。つまり純粋に「60代をどう生きたいか」で自由に選んでよいということです。やりたいことが60代にあるなら60歳繰り上げも十分アリです。
5. 【ケースA向け】繰り上げ+S&P500運用で加給年金損失を取り戻せるか?
加給年金がもらえるケースAの人でも、「どうしても60代に使いたい。繰り上げで受け取った年金を全額S&P500(アメリカの代表的な株価指数)で運用すれば、加給年金の損失を取り戻せるのでは?」という発想は合理的です。実際に計算してみました。
前提:60歳から月12.9万円を受け取り、再雇用給与で生活費を賄いながら、年金を全額投資に回した場合の5年後(65歳時点)の概算です。
| 運用利回り | 5年後の資産額(概算) | 加給年金損失 約500万円との比較 |
|---|---|---|
| 運用なし(貯金) | 約775万円 | 差引 約275万円のプラス |
| 年利3%(債券系) | 約835万円 | 差引 約335万円のプラス |
| 年利5%(S&P500想定) | 約880万円 | 差引 約380万円のプラス |
| 年利7%(積極運用) | 約928万円 | 差引 約428万円のプラス |
6. タイプ別おすすめ受給年齢
あくまで一つの目安ですが、状況別の考え方を表にまとめました。
| あなたの状況 | おすすめの考え方 |
|---|---|
| 配偶者の厚年20年未満・加給年金もらえる(ケースA) | 65歳原則受給 |
| 健康に不安がある・家系が短命 | 60歳繰り上げ |
| 共働き(ケースB)・60代にやりたいことがある・運用できる | 60歳繰り上げ+運用 |
| 配偶者が同年代または年上・長生き家系 | 65歳原則受給 |
| 再雇用収入がなく生活費が不安 | 65歳原則受給 |
| 共働き(ケースB)・とにかく早く使いたい | 60歳繰り上げ |
7. 筆者の結論
筆者(52歳・IT系会社員)の場合
当初は「繰り上げ派寄り」で計算を始め、次に加給年金約500万円を見て「65歳が有利だ」と考えました。ところが調べ進めると、わが家はそもそも加給年金をもらえない可能性が高いことに気づきました。妻が年下で厚生年金の受給資格はありますが、フルタイムで働き続けるため厚生年金20年以上=ケースB。配偶者が受給権を持つと加給年金は支給停止になるため、約500万円は当てにできないのです。
つまりわが家は、加給年金を前提にできないケースB。だとすれば損益分岐点は約81歳という純粋な計算に戻ります。
そして私が本当に大切にしたいのは、「60〜70歳の10年間をどう生きるか」という問いです。体力があって、子育てが一段落して、自分の時間を使える10年。70歳以降は余生と考えれば、この10年の充実度こそが人生の質を決める、と感じています。
損益分岐点が約81歳(平均寿命とほぼ同じ)なら、純粋に「60代をどう生きたいか」で決めていいということでもあります。私はまだ最終結論を出していませんが、60歳繰り上げも十分に現実的な選択肢だと考えています。
大切なのは、まず自分の世帯がケースAかケースBかをねんきんネットで確認すること。そのうえでお金の合理性と人生設計の両面から判断することをおすすめします。
まとめ
- 純粋な損益分岐点(加給年金なし)は60〜62歳繰り上げで約81歳(おおむね平均寿命と近い水準)
- 63〜64歳の繰り上げは損益分岐点が84〜85歳と最も不利。中途半端な繰り上げが最も損
- 加給年金がもらえる世帯(ケースA)は、繰り上げで約500万円を失うため65歳受給が有利
- 配偶者が厚生年金20年以上の共働き世帯(ケースB)は加給年金が見込めず、損益分岐点は約81歳に戻る
- 配偶者が受給権を持つと、実際に受け取っていなくても加給年金は支給停止(2022年改正)
- まず自分の世帯がケースAかケースBかをねんきんネットで確認することが最優先
- ケースBなら、最終判断は「お金の損得」より「60代をどう生きたいか」で決めてよい