「年金は早くもらったほうが得」と聞くけれど、本当にそうなのか?

52歳の私が、自分のねんきん定期便の実データ(65歳時点で月17万円・厚生年金満期)をもとに、60歳・61歳・62歳・63歳・64歳・65歳のすべての開始年齢で損益分岐点を計算してみました。

さらに、年下配偶者がいる場合の加給年金(約500万円規模)を加味すると……答えは「配偶者が共働きかどうか」で2つに分かれます。同じ悩みを抱える50代の方に、リアルな計算と判断基準をお伝えします。

1. 繰り上げ受給の基本と減額率

老齢基礎年金・老齢厚生年金は本来65歳から受給開始ですが、60歳から繰り上げて受け取ることができます。ただし繰り上げた分だけ、受給額が一生涯減額されます。

⚠️ 2022年4月以降の新ルール:2022年4月の法改正により、繰り上げ減額率が1ヶ月あたり0.5%→0.4%に緩和されました(出典:日本年金機構)。2022年4月2日以降に60歳になる方(1962年4月2日以降生まれ)が対象です。本記事はこの新ルールで計算しています。
受給開始年齢繰り上げ月数減額率月受給額(※)
60歳60ヶ月▲24.0%約12.9万円
61歳48ヶ月▲19.2%約13.7万円
62歳36ヶ月▲14.4%約14.6万円
63歳24ヶ月▲9.6%約15.4万円
64歳12ヶ月▲4.8%約16.2万円
65歳0ヶ月±0%17万円(基準)

※筆者のねんきん定期便に基づく実額。65歳受給額を月17万円として計算しています。

2. 60〜65歳 全パターンの損益分岐点一覧

「損益分岐点」とは、繰り上げて早くもらい始めた場合と、65歳から受け取った場合の累計受取額が逆転する年齢のことです。

計算の考え方

①65歳時点での累計受取差額(先取り額)を出す → ②65歳以降の毎月の差額で割る → ③65歳に足して損益分岐点を出す、という順番で計算しています。

受給開始月受給額65歳までの先取り額65歳との月差額損益分岐点
60歳約12.9万円約775万円約4.1万円約81歳
61歳約13.7万円約618万円約3.3万円約81歳
62歳約14.6万円約466万円約2.5万円約81歳
63歳約15.4万円約369万円約1.6万円約84歳
64歳約16.2万円約194万円約0.8万円約85歳
65歳17万円
💡 意外な事実:63〜64歳の繰り上げが最も割に合わない
60〜62歳で繰り上げると損益分岐点は約81歳でほぼ同じ。ところが63〜64歳に繰り上げると84〜85歳まで上がります。「少しだけ早くもらう」が一番損という逆転現象が起きています。
→ どうせ繰り上げるなら、60歳のほうが合理的という結果になりました。

3. 繰り上げのメリット・デメリット

メリット

  • 60代に使えるお金が増える
  • 体力がある時期にお金を使える
  • 再雇用収入と合わせやすい
  • 受け取った分を運用に回せる
  • 早く亡くなっても損しにくい(81歳より前なら累計で有利)
  • 毎月収入がある安心感

デメリット

  • 月額が一生涯減額される
  • 一度決めたら変更できない
  • 長生きすると累計で損になる
  • 障害年金への切り替えができなくなる
  • 寡婦年金が受け取れなくなる
  • 加給年金が消える(重要!)

4. 見落とし厳禁!加給年金で前提が2つに分かれる

繰り上げ受給のデメリットで最も見落とされがちなのが加給年金の消滅です。ただし、そもそも加給年金がもらえる世帯かどうかで結論が大きく変わります。

加給年金とは?

厚生年金に20年以上加入した人が65歳到達時に、年収850万円未満で65歳未満の配偶者がいる場合に上乗せされる年金です。特別加算込みで年額約41万円(月約3.4万円)が加算されます。配偶者が12歳年下なら最大12年間、総額約500万円規模になり得ます。

⚠️ ただし「配偶者が共働き」だともらえないことがある:配偶者自身に厚生年金20年以上の老齢厚生年金の受給権がある場合、加給年金は支給停止になります。さらに2022年4月以降は、配偶者が在職中などで実際に年金を受け取っていなくても、受給権があるだけで支給停止です。共働きでフルタイム勤務を続ける配偶者がいる世帯は、加給年金をもらえない可能性が高いのです。

そこで、繰り上げの損得を2つのケースに分けて考える必要があります。

ケースA:加給年金がもらえる世帯(配偶者の厚年20年未満)

専業主婦や短期パート中心など、配偶者の厚生年金が20年未満の場合は加給年金(約500万円規模)を65歳から受け取れます。この場合、繰り上げると加給年金がまるごと消えるため65歳受給が大きく有利です。

繰り上げると消える加給年金(配偶者12歳年下の例)
約41万円 × 最大12年 = 約500万円
※ 配偶者の年齢差や加給年金額により変わります
受給開始65歳までの先取り額加給年金損失実質差引額判定
60歳約775万円△約500万円約275万円プラス65歳が有利
61歳約618万円△約500万円約118万円プラス65歳が有利
62歳約466万円△約500万円約34万円マイナス最初から損
63〜64歳194〜369万円△約500万円大きくマイナス最初から損
65歳加給年金フル受取最有利

ケースAの結論

加給年金をもらえる世帯は、繰り上げると約500万円を失います。65歳原則受給が最も合理的です。

ケースB:加給年金がもらえない世帯(配偶者の厚年20年以上)

配偶者がフルタイムで働き続け、厚生年金が20年以上になる共働き世帯では、そもそも加給年金を受け取れない可能性が高いです。この場合は加給年金の損失を考える必要がなく、第2章の純粋な損益分岐点(約81歳)に戻ります。

受給開始損益分岐点判定
60歳約81歳60歳・65歳ほぼ互角
61〜62歳約81歳60歳・65歳ほぼ互角
63〜64歳84〜85歳中途半端で不利
65歳基準

ケースBの結論

加給年金がもらえない世帯は、損益分岐点が約81歳(平均寿命とほぼ同じ)。つまり純粋に「60代をどう生きたいか」で自由に選んでよいということです。やりたいことが60代にあるなら60歳繰り上げも十分アリです。

📌 まずは自分がどちらのケースか確認を:結論はあなたの世帯がケースAかケースBかで真逆になります。配偶者の厚生年金加入年数をねんきんネットで必ず確認してください。詳しくは加給年金の解説記事で取り上げています。

5. 【ケースA向け】繰り上げ+S&P500運用で加給年金損失を取り戻せるか?

加給年金がもらえるケースAの人でも、「どうしても60代に使いたい。繰り上げで受け取った年金を全額S&P500(アメリカの代表的な株価指数)で運用すれば、加給年金の損失を取り戻せるのでは?」という発想は合理的です。実際に計算してみました。

前提:60歳から月12.9万円を受け取り、再雇用給与で生活費を賄いながら、年金を全額投資に回した場合の5年後(65歳時点)の概算です。

運用利回り5年後の資産額(概算)加給年金損失 約500万円との比較
運用なし(貯金)約775万円差引 約275万円のプラス
年利3%(債券系)約835万円差引 約335万円のプラス
年利5%(S&P500想定)約880万円差引 約380万円のプラス
年利7%(積極運用)約928万円差引 約428万円のプラス
📌 注意:繰り上げで先取りした年金を運用に回せば、加給年金の損失(約500万円)の一部〜大部分をカバーできる可能性があります。ただし投資には元本割れ(投資したお金が減る)リスクがあり、「必ず5%のリターンが得られる」保証はありません。運用リスクを取れる人向けの戦略です。一方、共働きで加給年金がそもそも見込めないケースBの人は、この損失自体を気にする必要がありません。

6. タイプ別おすすめ受給年齢

あくまで一つの目安ですが、状況別の考え方を表にまとめました。

あなたの状況おすすめの考え方
配偶者の厚年20年未満・加給年金もらえる(ケースA)65歳原則受給
健康に不安がある・家系が短命60歳繰り上げ
共働き(ケースB)・60代にやりたいことがある・運用できる60歳繰り上げ+運用
配偶者が同年代または年上・長生き家系65歳原則受給
再雇用収入がなく生活費が不安65歳原則受給
共働き(ケースB)・とにかく早く使いたい60歳繰り上げ

7. 筆者の結論

筆者(52歳・IT系会社員)の場合

当初は「繰り上げ派寄り」で計算を始め、次に加給年金約500万円を見て「65歳が有利だ」と考えました。ところが調べ進めると、わが家はそもそも加給年金をもらえない可能性が高いことに気づきました。妻が年下で厚生年金の受給資格はありますが、フルタイムで働き続けるため厚生年金20年以上=ケースB。配偶者が受給権を持つと加給年金は支給停止になるため、約500万円は当てにできないのです。

つまりわが家は、加給年金を前提にできないケースB。だとすれば損益分岐点は約81歳という純粋な計算に戻ります。

そして私が本当に大切にしたいのは、「60〜70歳の10年間をどう生きるか」という問いです。体力があって、子育てが一段落して、自分の時間を使える10年。70歳以降は余生と考えれば、この10年の充実度こそが人生の質を決める、と感じています。

損益分岐点が約81歳(平均寿命とほぼ同じ)なら、純粋に「60代をどう生きたいか」で決めていいということでもあります。私はまだ最終結論を出していませんが、60歳繰り上げも十分に現実的な選択肢だと考えています。

大切なのは、まず自分の世帯がケースAかケースBかをねんきんネットで確認すること。そのうえでお金の合理性と人生設計の両面から判断することをおすすめします。

まとめ

  • 純粋な損益分岐点(加給年金なし)は60〜62歳繰り上げで約81歳(おおむね平均寿命と近い水準)
  • 63〜64歳の繰り上げは損益分岐点が84〜85歳と最も不利。中途半端な繰り上げが最も損
  • 加給年金がもらえる世帯(ケースA)は、繰り上げで約500万円を失うため65歳受給が有利
  • 配偶者が厚生年金20年以上の共働き世帯(ケースB)は加給年金が見込めず、損益分岐点は約81歳に戻る
  • 配偶者が受給権を持つと、実際に受け取っていなくても加給年金は支給停止(2022年改正)
  • まず自分の世帯がケースAかケースBかをねんきんネットで確認することが最優先
  • ケースBなら、最終判断は「お金の損得」より「60代をどう生きたいか」で決めてよい
免責事項(2026年6月時点の情報です):本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の投資・年金に関する助言ではありません。実際の受給額・加給年金の有無はねんきんネット(日本年金機構)等で必ずご確認ください。年金制度は改正される場合があり、計算数値はすべて概算です。