はじめに――52歳の私が定年を本気で考えたきっかけ

今年52歳になった。IT系の保守業務からキャリアをスタートし、今はコールセンターの管理職をしている。定年は60歳、あと8年だ。

これまで「老後のこと」は、なんとなく先送りにしてきた。ところが今年、ふとしたきっかけでFP3級の勉強を始めた。テキストを読み進めるうちに、自分がいかに「お金の仕組み」を知らなかったかに気づいた。年金・健康保険・失業給付・退職所得控除……。社会人として30年近く働いてきたのに、制度の基本すら理解できていなかったのだ。

勉強と並行して、自分の老後を数字で整理してみた。この記事はそのシミュレーションの記録だ。同じように「定年まであと数年、そろそろ真剣に考えなければ」と感じている50代の方に、少しでも参考になれば嬉しい。

この記事でわかること

52歳・年収650万円の会社員が、退職金・NISA・年金・TJK健保・失業給付を使って60〜65歳の収支をどう試算したか。再雇用と転職の判断軸、社会保険の意外な落とし穴も整理しています。

私の現状整理(仕事・家族・お金)

まず今の自分の状況を一覧にした。頭の中でなんとなく把握しているつもりでも、紙に書き出すと「あ、ここが穴だ」という部分がはっきりする。

仕事・キャリア

現職IT系コールセンター管理職(前職はIT系保守業務)
年収約650万円
定年60歳(あと8年)
加入中の健康保険TJK(東京IT健康保険組合)
自己啓発FP3級を勉強中

家族構成

契約社員・年収約300万円
長男大学1年生
長女中学1年生

資産・負債の現状

退職金(見込み)約800万円
住宅ローン残債約300万円(63歳で完済予定)
NISA残高(2026年4月時点)約490万円(S&P500インデックス積立)
NISA月次積立額月5万円(継続中)
iDeCoなし
現預金少なめ(課題として認識中)
月々の生活費約15万円

整理して気づいたこと

NISAは順調に育っているが、手元の現預金が薄い。突発的な支出(医療・住宅修繕・子どもへの援助)に対応できる流動資金の確保が、今の最大の課題だと気づいた。

再雇用の現実――給与7割減・通勤100分・会社の先行き不安

私の会社には60歳定年後の再雇用制度がある。ところが、実際に確認してみると条件が想像よりずっと厳しかった。

条件内容
給与現給与の6〜7割(月収ベースで大幅ダウン)
勤務地都内(変わらず。通勤片道100分)
雇用形態有期契約(継続の保証なし)
会社の状況IT・コールセンター業界の変化で先行きに不安

60歳を過ぎても片道100分の通勤を続けながら、収入が7割になる。体力・気力の両方が心配だ。60〜65歳は「旅行に行ったり、好きなことをしたい」と思っているのに、この条件では現実的ではないと感じている。

法律のポイント:高年齢者雇用安定法により、企業は65歳までの雇用確保が義務付けられています。ただし、給与水準・勤務条件・雇用形態は会社の裁量に委ねられており、定年前と同じ条件が保証されるわけではありません(出典:厚生労働省)。

転職・新しい仕事という選択肢

再雇用条件が厳しいなら、60歳以降に新しい職場を探す選択肢も当然ある。ただ、私が60歳以降に求める条件ははっきりしている。

健康保険の加入を最優先にするのは、国民健康保険に自費加入すると保険料が高額になるためだ(この件は後述の第6節で詳しく計算する)。週20時間以上・月収88,000円以上などの条件を満たす職場であれば、パートタイムでも社会保険に加入できる(出典:厚生労働省)。

ITとコールセンター運営の両方の経験があるので、社内システム管理・ヘルプデスク・コールセンター運営コンサルといった仕事であれば、経験を活かして再スタートできると思っている。50代のうちに「60歳以降に使えるスキル・資格・人脈」を棚卸しておくことが大切だと、FP3級の勉強を通じて改めて感じた。

お金のシミュレーション(退職金・NISA・年金・住宅ローン)

60歳時点でどれだけの資産があり、その後どう活用するかを整理した。

① 退職金:約800万円

会社から提示されている見込み額は約800万円。退職所得控除の計算では、勤続年数20年超の場合は「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」が控除される。勤続30年なら控除額は1,500万円となり、800万円の退職金であれば税負担はほぼゼロになる見込みだ(実際の税額は勤続年数・退職金額・受取方法によって変わるため、退職前に会社の担当部署または税務署に確認を)。

② 住宅ローン:退職時に残債約300万円を一括返済

63歳完済予定のローンだが、退職金を受け取ったタイミングで一括返済する計画だ。800万円から300万円を返済すると、手元に残るのは500万円。これが定年後の安心資金の核になる。

退職金の使い道(試算)

800万円 − 住宅ローン300万円 = 500万円

この500万円を「つなぎ資金」として手元に確保する

③ NISA:60歳時点での元本試算

現在の残高は約490万円。月5万円の積立をこのまま8年間続けると、追加する積立元本は480万円(5万円×12カ月×8年)になる。積立元本の合計だけで970万円に達する計算だ。

実際の残高は市場環境によって大きく変わるため、「60歳時点でいくらになる」とは言えない。私のスタンスとしては、60〜65歳の収入があるうちはNISAに手をつけず運用を続け、65歳の年金受給開始後も生活費に余裕があれば引き出しを急がないつもりだ。

重要:NISAで購入できるインデックスファンドは元本保証ではありません。市場の状況によっては資産が減少する可能性があります。本記事は情報提供を目的としており、特定の投資を勧誘するものではありません。

④ 年金:65歳受給予定

ねんきん定期便の試算では、65歳受給開始で月額約18〜20万円の見込み(妻の年金は別途)。繰り上げ受給(60〜64歳開始)も選択肢にあるが、1カ月繰り上げるごとに0.4%の減額になる(2022年4月以降の改正後)。60歳から受給すると約24%の恒久的な減額になるため、60〜65歳に別の収入が確保できるなら、繰り上げは慎重に判断したい。

退職後の健康保険どうする?TJK任意継続 vs 国民健康保険

健康保険の選択は、定年退職後の家計に直結する重要ポイントだ。私の場合、現在TJK(東京IT健康保険組合)に加入しているため、選択肢は主に2つになる。

項目TJK任意継続国民健康保険
月額保険料(概算)約3万円約5〜6万円
加入できる期間最長2年間制限なし
申請期限退職後20日以内(厳守)退職後14日以内
扶養家族条件付きで継続可別途保険料が加算
給付内容傷病手当金等の継続あり傷病手当金なし

月額の差額だけで2〜3万円、2年間で最大72万円の差が出る計算だ。私の場合、TJK任意継続を選ぶのが有利と判断した。ただし、2年経過後は国民健康保険か、新しい職場の社会保険への加入に切り替えが必要になる。

注意:TJK任意継続の申請は退職後20日以内が絶対期限です。この期限を1日でも過ぎると加入できません。退職日が決まったら、すぐにTJKへ確認の連絡を入れることを強くおすすめします(出典:全国健康保険協会・各健康保険組合)。

FP3級で学んで実感したこと

健康保険の選択肢は「任意継続・国保・家族の扶養」の3択が基本です。加入している健康保険組合によって保険料・給付内容が大きく異なるため、まず自分の健保組合の条件を直接確認することが先決です。

失業給付はすぐもらえる?定年退職の正しい知識

FP3級の勉強で知って驚いたのが、定年退職と失業給付の関係だ。

定年退職は「給付制限なし」

一般的な自己都合退職では、ハローワークへの申請後2〜3カ月の給付制限期間(待機期間を除く)がある。しかし定年退職は「会社都合に準じた退職」として扱われるため、7日間の待機期間が終わればすぐに給付が始まる(出典:ハローワーク)。

また、私のように「再雇用の条件が著しく不利(給与7割減・通勤100分・会社存続不安)」という理由で再雇用を断った場合も、正当な理由のある離職として認められる可能性が高い。これも給付制限なしで対応できる。

注意:給付制限の有無・特定理由の認定は個々の状況によって異なります。必ず最寄りのハローワークで事前に相談・確認してください。

私の場合の失業給付試算

被保険者期間が30年以上の場合、所定給付日数は150日(約5カ月分)になる。給付額は退職前6カ月間の平均賃金日額の45〜80%が基準で、賃金が高いほど給付率は低くなる(賃金日額・給付率の詳細は厚生労働省・ハローワークの公式情報で確認を)。

あくまで概算だが、私の場合は合計で数十〜百万円程度の給付を受けられる見込みだ。正確な金額はハローワークでの手続き時に確定するため、退職前に試算を相談するつもりだ。

定年後のタイムライン(私のシナリオ)

時期行動・状況
60歳定年有給休暇30日を消化(在職扱いのまま約1.5カ月)
退職日(20日以内)TJK任意継続を申請・ハローワークへ離職票を持参して登録
7日間の待機期間後失業給付スタート(定年退職のため給付制限なし)
給付期間(約5カ月)旅行・休養・就職活動を並行して進める
新しい職場へ健康保険・厚生年金に加入できる職場でリスタート

定年後の「自由時間」の合計

有給1.5カ月 + 給付期間5カ月 = 約6.5カ月

収入を確保しながら次のステージを考える余裕ができる

社会保険はセット加入(知らなかった!厚生年金は70歳まで続く)

FP3級の勉強を始めて最も「知らなかった」と感じた事実のひとつが、社会保険の仕組みだ。

社会保険は4つセットで加入

会社員が加入する「社会保険」とは、以下の4つがセットで加入する仕組みだ。個別に「健康保険だけ加入したい」「厚生年金は不要」という選択はできない。

「健康保険に加入できる職場で働きたい」という私の希望は、つまり厚生年金・雇用保険・介護保険にも自動的に加入できる職場、ということだ。

健康保険加入 = 厚生年金も加入

60歳以降も社会保険のある職場で働けば、厚生年金の被保険者として保険料を払い続けることになります。その分、将来の年金受給額が増えるという側面もあります。

厚生年金は「70歳まで」支払いが続く

もうひとつ驚いたのが、厚生年金の支払い期間だ。国民年金(基礎年金)は60歳で支払いが終わる。しかし厚生年金は、会社員として在職している限り70歳まで保険料の支払いが続く(出典:日本年金機構)。

つまり60歳以降も社会保険のある職場で働けば、70歳まで厚生年金保険料が給与から控除される。60〜65歳の手取り計算をするときに、これを忘れていると収支が狂う。FP3級の勉強をするまで、この事実を私は知らなかった。

種類支払い終了年齢
国民年金(基礎年金)60歳まで
厚生年金(会社員として在職中)70歳まで

60〜65歳の収支バランスを試算する

年金が始まる65歳まで、どう家計を回すかが最大の課題だ。妻の収入と自分の仕事収入が頼りになる期間でもある。

収入サイド(月次・概算)

収入源月額(概算)備考
新しい仕事(再就職)20〜25万円社保加入の職場が前提
妻の収入約25万円年収300万円÷12カ月
合計(夫婦)約45〜50万円税・社保控除前の概算

支出サイド(月次・概算)

支出項目月額(概算)備考
生活費(食費・光熱費等)約15万円現状ベース
TJK任意継続保険料約3万円退職後2年間のみ
旅行・趣味月平均5万円を目安60〜65歳に積極的に楽しむ
子ども関連状況による長女が60〜62歳時に大学生の可能性あり
厚生年金保険料(在職中)数万円社保加入の職場で働く場合は控除される

見落としがちな注意点

長女が18歳になるのは私が58歳ごろ。60歳定年のタイミングで、ちょうど大学に入学する年齢になります。定年直後の60〜62歳は、教育費とのダブル負担が発生する可能性を想定しておく必要があります。

「有給消化+失業給付」期間の収支

退職直後の約6.5カ月は「有給消化(給与あり)→失業給付」でつなぐ予定だ。この期間にTJK任意継続(月3万円)を申請しておけば、医療費の不安なく就活・旅行に使える時間が生まれる。私はこの約7カ月を「定年後のリセット期間」として、焦らず次の職場を選ぶために使うつもりだ。

私が出した結論と判断ポイント

数字を整理し、FP3級のテキストと照らし合わせた結果、自分なりの結論が出てきた。

結論①:再雇用は断り、新しい職場へ転職する

給与7割減・通勤100分・会社存続不安という条件では、体力的・精神的に続けられないと判断した。失業給付も定年退職扱いで給付制限なしに受けられるため、7カ月程度の余裕期間を使って自分に合った職場を探す。

結論②:退職後20日以内にTJK任意継続を申請する

国保と比べて月2〜3万円の差が出るため、TJK任意継続は絶対に忘れてはいけない手続きだ。退職日が決まり次第、TJKに問い合わせて必要書類を確認しておく。

結論③:NISAは引き出さず、60〜65歳は仕事収入と妻の収入で生活する

65歳の年金受給開始後に生活費の目処がつけば、NISAは引き続き運用継続か、必要分だけ取り崩す形にする。老後資金の「使い方設計」は、今後FP3級の知識を深めながら考えていく。

結論④:今から現預金を増やすことが最優先

NISAは育っているが、流動性のある現預金が薄い。残り8年間で、月々の積立とは別に生活防衛資金を積み上げることを優先する。目標は「生活費6カ月分+子どもの教育費の不足分」を現金で確保することだ。

免責事項:本記事は筆者個人の試算・体験をもとにした情報提供を目的としており、投資・税務・法律上の専門的アドバイスではありません。記載の数字はすべて概算です。年金・保険料・税制・給付条件は変更される場合があります。個別の判断はFP(ファイナンシャルプランナー)や各公的機関にご相談ください。

まとめ――同じ悩みを持つ方へ

「定年まであと8年」と言うと長く感じるかもしれないが、子どもの教育費・住宅ローン・老後の準備が重なるこの時期は、あっという間に過ぎる。

私がFP3級の勉強を始めて一番よかったのは、「なんとなくの不安が、具体的な課題と数字に変わった」ことだ。課題が見えれば、対処法も考えられる。厚生年金が70歳まで続くことも、TJKの任意継続が国保より安いことも、定年退職で失業給付が給付制限なしで受けられることも、知らなければ損をしていた知識だ。

同じように「そろそろ老後を考えなければ」と思っている50代の方へ。まずは自分の数字を1枚の紙に書き出すことから始めてみてほしい。そしてできればFP3級のテキストを1冊手元に置いてみてほしい。お金の全体像がつかめると、不安が少しずつ具体的な計画に変わっていく。

今すぐできる4つのこと

  • ねんきんネット(日本年金機構)で年金見込み額を確認する
  • 会社の人事・総務に退職金額の見込みを問い合わせる
  • 自分が加入している健康保険組合の任意継続保険料を確認する
  • ハローワークで失業給付の試算を相談する