給与明細を眺めていて、「所得税」の欄をまじまじと見ることは、あまりないかもしれません。
でも2027年1月から、その欄の中身が静かに変わります。防衛特別所得税という新しい税金が始まるからです。
名前だけ聞くと身構えてしまいますが、結論を先にお伝えします。この税金が始まっても、給与から天引きされる所得税は増えません。 2027年1月の給与明細を見ても、去年と同じように見えるはずです。
(社会保険料や住民税の改定など、別の要因で手取りが動くことはあります。ここでお伝えしているのは「防衛特別所得税のせいで減る分はない」という意味です)
では、なぜ「増税」と呼ばれているのか。
答えは、増えるのが金額ではなく年数だからです。この記事では、その仕組みと、負担が本当に増え始めるタイミングを、国税庁の資料をもとに整理します。
所得税に1%を上乗せする新しい税金です。2027年(令和9年)1月1日以後に生じる所得から適用されます。
令和8年度(2026年度)の税制改正で創設が決まり、法案はすでに成立しています。「検討中」だった時期は終わり、開始は確定事項です。
目的は防衛力強化の財源確保。法人税には2026年4月から防衛特別法人税(法人税額の4%)がすでに始まっており、たばこ税も段階的に引き上げられています。所得税分は、その最後のピースにあたります。
同時に、東日本大震災の復興財源である復興特別所得税が変わります。
| 改正前 | 改正後 | |
|---|---|---|
| 復興特別所得税の税率 | 2.1% | 1.1% |
| 課税期間の終了 | 2037年12月31日 | 2047年12月31日 |
| 防衛特別所得税 | — | 1%(2027年1月〜) |
※表は左右にスクロールできます。
税率が1.0%ポイント下がり、そのぶんがそのまま防衛特別所得税に移ります。そして復興特別所得税の期間が、10年間延長されました。
(「1%下がる」と書くと、2.1%の1%=0.021%の引き下げと読めてしまいます。正しくは2.1%から1.0を引いて1.1%です)
ここが記事の核心です。あとで詳しく見ます。
いちばん多い誤解から先に潰しておきます。
1%をかける相手は、年収ではなく「所得税額」です。
この税金は付加税と呼ばれるタイプで、ゼロから計算するものではありません。すでに計算し終わった所得税に、後から1%を乗せるだけです。
★この数字の1%
一番下の、一番小さくなった数字に1%をかけます。年収に1%ではないので、体感はまったく別物です。
まず、次の前提で計算しています。
| 年収 | 所得税額(概算) | 防衛特別所得税 | もし「年収の1%」なら |
|---|---|---|---|
| 300万円 | 約5万円 | 約500円 | 3万円 |
| 500万円 | 約12.5万円 | 約1,250円 | 5万円 |
| 700万円 | 約28.6万円 | 約2,900円 | 7万円 |
| 1,000万円 | 約78.6万円 | 約7,900円 | 10万円 |
※表は左右にスクロールできます。金額はすべて概算です。
年収500万円の方で、年1,250円。月にすると100円ちょっと、缶コーヒー1本分です。
年収に対する割合は約0.025%。「年収の1%」と誤解した場合の5万円とは、40倍の開きがあります。
上の表は扶養なしの数字です。実際の50代世帯に近い条件だと、どうなるか。
モデル:年収700万円・配偶者(収入なし)・大学生の子1人
扶養が増えれば控除が増え、所得税額そのものが減る。そこにかかる1%も自動的に減ります。同じ年収でも、家族構成で3倍以上の差が出ます。
社会保険料率、扶養の有無、各種控除の状況で金額は変わります。ご自身の額は、次の章の方法でご確認ください。
ここが、この制度のいちばん不思議なところです。
新しい税金が始まるのに、給与から引かれる額は変わりません。「たまたま同じ」ではなく、計算式そのものが変わらないのです。
国税庁の資料には、こう書かれています。改正前(復興特別所得税2.1%)と改正後(防衛特別所得税1%+復興特別所得税1.1%)とで合計税率2.1%に変更はないため、源泉徴収税額の計算方法に変更は生じない、と。
ポイントは、2つの税を別々に計算して足すのではないということ。支払金額に「所得税率×102.1%」という合計税率をかけ、1枚の納付書で納めます。
掛ける数字が102.1%のまま据え置きなので、端数処理まで含めて結果が変わりようがありません。報酬にかかる源泉徴収も10.21%のままです。年末調整も「年調所得税額×102.1%」で、これまでどおりです。
変わるのは、集めた2.1%分を国が復興財源と防衛財源に内部で振り分ける割合だけ。
納税者側から見れば、何も起きていないのと同じです。給与明細も源泉徴収票も、見た目は今までどおりになります。
「天引きが変わらないなら、増税じゃないのでは?」
そう思われるかもしれません。ここからが本題です。
住宅ローンに例えると、こう言われたのと同じ状況です。
「毎月の返済額は今までどおりです。ただ、完済が10年先になります」
月々は痛くない。でも総額は確実に増えています。
| 期間 | 旧制度なら | 新制度 | 差 |
|---|---|---|---|
| 〜2026年 | 復興2.1% | 復興2.1% | ±0 |
| 2027〜2037年 | 復興2.1% | 復興1.1%+防衛1% = 2.1% | ±0 |
| 2038〜2047年 | 0%(復興税終了) | 復興1.1%+防衛1% = 2.1% | +2.1% |
| 2048年〜 | 0% | 防衛1% | +1% |
※表は左右にスクロールできます。
2038年から、差が一気に開きます。
旧制度のままなら、復興特別所得税は2037年で終わり、付加税はゼロになるはずでした。それが2047年まで延長されます。
さらに防衛特別所得税のほうは、課税期間が「令和9年以後の当分の間」——終了時期が決められていません。
所得税額が年30万円の方で試算してみます。
年収500万円クラス(所得税約12.5万円)なら、2038〜2047年の10年で約26,000円、その後も年1,250円ずつ続く計算です。
金額の大小より、「今は変わらない」が「ずっと変わらない」ではないという一点が重要だと思います。
土台の所得税額がゼロなら、その1%もゼロです。何をかけてもゼロはゼロ。
該当しやすいのは、こんな方々です。
パートやアルバイトで年収が低く、控除の範囲内に収まっている方は対象外です。2025年の改正で所得税がかかり始めるラインが引き上げられたため、以前より該当者は増えています。
年金収入のみで、公的年金等控除と基礎控除で課税所得がゼロになる方も同様です。
ここは見落とされがちです。
住宅ローン控除は税額控除なので、「基準所得税額」を計算する段階で差し引かれます。控除しきって所得税がゼロになる方は、防衛特別所得税もゼロになります。
正確に言うと、「NISA口座を持っている人が免除される」という話ではありません。
NISA口座内の運用益には所得税が課税されないため、防衛特別所得税の対象となる所得税額そのものが発生しない、ということです。給与にかかる所得税には、当然ながら上乗せされます。
裏を返せば、防衛増税があってもNISAの非課税メリットは目減りしません。 課税口座の運用益には所得税15.315%(復興特別所得税込み)がかかり、2027年以降もこの15.315%は据え置きですが、NISAはそもそもゼロのままです。50代から資産形成を始める方にとっては、押さえておきたい差だと思います。
防衛特別所得税は所得税の付加税です。住民税(標準10%)は対象外で、こちらは影響を受けません。
ここだけ、私自身の話をします。
52歳の会社員として毎年もらう源泉徴収票を使えば、自分の額はすぐ計算できます。
ただし、そのまま1%をかけてはいけません。
源泉徴収税額の欄には、復興特別所得税2.1%がすでに含まれています。まずこれを取り除く必要があります。
たとえば源泉徴収税額が128,000円なら、
これが、2027年から新しい名前で徴収される分の目安になります。
なお、この割り戻しで出てくる金額は、住宅ローン控除などの税額控除を差し引いた後の数字です。防衛特別所得税の計算のもとになる「基準所得税額」も同じく税額控除後なので、考え方としては一致しています。
「1%が将来2%、3%と上がるのでは」——気になるところだと思います。
ここは、確定していることとしていないことを分けて考える必要があります。
1%も1.1%も、法律に数字として書かれています。物価スライドのような自動調整の仕組みは入っていません。変えるには、あらためて税制改正法を通す必要があります。
復興特別所得税のほうにも制約があります。復興債の償還財源に紐づいており、税率を下げるかわりに期間を延ばして総額を確保する設計です。総額が先に決まっているため、ここからさらに削って防衛に回す理屈は立ちにくいと考えられます。
一方で、防衛特別所得税の課税期間は「当分の間」——終期が定められていません。期限のない税は、期限のある税より手を入れやすいというのは、制度設計上の事実です。
前例もあります。復興特別法人税は、当初3年の予定が2014年に2年前倒しで廃止されました。付加税の税率や期間が途中で動かされた実績は、現にあります。
税率のニュースより、防衛費の総額目標のほうです。
今の1%は「2027年度に1兆円強を確保する」という前提から逆算された数字です。必要額が増えれば、率の議論が再燃するのは自然な流れになります。
とはいえ、現時点で税率引き上げの具体案が出ているわけではありません。根拠のない予想はせず、毎年12月の与党税制改正大綱を確認する——それがいちばん確実な向き合い方だと思います。
「毎年は小さい、でも終わりが遠い」。
これがこの制度のいちばん正確な要約だと思います。
2038年、私は64歳。再雇用の最終盤にさしかかっている頃です。2048年には74歳、年金生活の真っ最中でしょう。
私にとって負担が実際に増え始めるのは、再雇用の終わりや年金生活を考える時期とちょうど重なります。
だからこそ、金額の小ささに安心して終わるのではなく、今のうちから手を打っておきたいところです。NISAの非課税枠がこの1%の対象外である意味も、そこにあります。
※本記事は2026年8月時点の法令・公表情報に基づく概算です。最新の情報は必ず公式サイトでご確認ください。
最終更新日:2026年8月2日