「うちは大丈夫」——そう思っていても、リチウムイオン電池の火災の多くは、ごく普通に使っていた家庭で起きています。スマホかモバイルバッテリーが1台でも家にあるなら、5分だけこの記事にお付き合いください。
リチウムイオン電池の火災は「充電」「保管」「廃棄」の3つの場面に気をつけるだけで、その大半を防げます。
火災件数は2026年、過去最多ペースで増えています。しかし出火原因の多くは「非純正の充電器」「高温の場所への放置」「間違ったごみ出し」といった、私たちが今日から変えられる行動です。この記事では、公的機関のデータをもとに、家庭でできる予防策と、万一のときの対処法をまとめます。
スマホ、モバイルバッテリー、コードレス掃除機、ワイヤレスイヤホン、加熱式たばこ。50代の我が家を見回しても、リチウムイオン電池を内蔵した製品は10個や20個ではききません。便利さの裏側で、この電池が原因の火災が全国で急増していることが、消防のデータではっきり示されています。
目次
火災はどれくらい増えているのか(最新データ)
結論から言うと、2026年は過去最多を更新するペースで増えています。他人事ではない規模です。
東京消防庁の発表によると、管内のリチウムイオン電池関連火災は2025年に382件と過去最多を記録し、2026年は5月末時点ですでに179件と、前年同期(117件)の約1.5倍のペースで発生しています。負傷者も2026年は5月末までに41人と、前年同期から14人増えています。
全国に目を向けると、総務省消防庁が把握したリチウムイオン電池等からの出火は2025年に1,297件に達しています。
東京消防庁の2025年の月別データでは、7月が43件と年間で最も多く、10月42件、8月41件と続きます。リチウムイオン電池は高温に弱く、車内やベランダ、直射日光の当たる窓際に置かれた電池は熱暴走のリスクが跳ね上がります。まさに今、この記事を書いている7月が1年で最も危険な時期です。
なぜ発火するのか|熱暴走の仕組み
リチウムイオン電池は「小さな容積に大きなエネルギーを詰め込んだ電池」であり、内部で短絡(ショート)が起きると自分自身の化学反応で発火します。これが「熱暴走」です。
電池の内部は、正極と負極がセパレーターという薄い絶縁膜で仕切られています。落下や圧迫でこの膜が傷ついたり、劣化で内部に金属の結晶(デンドライト)が成長して膜を突き破ったりすると、内部短絡が起こり、急激な発熱→可燃性の電解液への着火、と連鎖します。
重要なのは、外から火を近づけなくても、電池が自分で発火するという点です。ライターやコンロの火の始末とはまったく別のリスク管理が必要になります。
だからこそ、外傷や膨らみがないか日常的にチェックし、衝撃と高温を避ける管理が欠かせません。次の章で、その具体的なチェック項目を見ていきます。
危険サインのチェックリスト(東京消防庁)
次の5項目のうち、1つでも当てはまる電池・製品は火災の危険があります。東京消防庁が注意喚起しているチェック項目です。ご自宅の引き出しに眠っているモバイルバッテリーも含めて、確認してみてください。
| 症状 | 危険度 | とるべき対応 |
|---|---|---|
| 膨らんでいる・変形している | ★★★★★ | 即使用中止。充電もしない |
| 充電中や使用中に異常に熱くなる | ★★★★☆ | 使用中止し、メーカー・販売店へ相談 |
| 充電できない・充電時間が急に変わった | ★★★★☆ | 劣化のサイン。使用中止して買い替え検討 |
| 過去に落下させたことがある | ★★★☆☆ | 外傷・膨らみを確認。異常が出たら即中止 |
| 熱のこもりやすい場所で使っている | ★★★☆☆ | 使用・保管場所を今日から見直す |
すぐに使用を中止し、メーカーや販売店に相談してください。「まだ使えるから」と使い続けるのが一番危険です。膨らんだ電池を無理に押し込んだり、分解したりするのは絶対にやめましょう。
今日からできる予防策|充電・保管の注意点
出火時の状況で最も多いのは「充電中」です。東京消防庁のデータでは、2025年の関連火災382件のうち、充電中の発生が130件と最多でした。つまり、充電まわりの習慣を見直すことが、最も効果的な予防策になります。
充電と保管のNG行動・対策一覧
| 場面 | 避けるべきNG行動 | 正しい対策(理由) |
|---|---|---|
| 充電 | 非純正・格安の充電器やケーブルを使う | メーカー指定の純正品を使う。東京消防庁の分析でも、充電中の出火原因は「充電方法誤り(正規品以外で充電)」が製品欠陥を除いて最多です |
| 充電 | 布団・ソファの上で充電する | 硬い平面の上で充電する。熱がこもるうえ、万一発火したとき一気に燃え広がります |
| 充電 | 就寝中・外出中に充電する | 目の届く時間帯に充電する。異常に気づけないためです |
| 保管 | 夏の車内・直射日光下に放置する | 高温を避けて保管する。高温は熱暴走の引き金で、炎天下のコンクリート上に置いたバッテリーから出火した事例もあります |
| 保管 | かばんの中で重い物に圧迫される状態にする | 衝撃・圧迫を避ける。外部衝撃による出火は充電の有無にかかわらず発生しています |
| 保管 | 残量ゼロのまま長期間放置する | ある程度充電した状態で保管する。過放電は劣化を早めます |
モバイルバッテリーは電気用品安全法の規制対象で、基準を満たした製品には「PSEマーク」が表示されています。極端に安い製品や、販売元・問い合わせ先が不明瞭な製品は避けるのが無難です。発火しにくいモバイルバッテリーを選ぶポイント(リン酸鉄タイプの実力、PSEマーク以外に見るべき点)や、耐火バッグは本当に必要なのかについては、対策グッズと安全なモバイルバッテリーの選び方で正直に検証しています。
正しい捨て方|燃えるごみは絶対NG
リチウムイオン電池を一般ごみ(燃えるごみ・燃えないごみ)に混ぜて出すのは絶対にやめてください。収集車やごみ処理施設の火災の最大原因になっているからです。
政府広報オンラインによると、一般ごみに混ざったリチウムイオン電池から出火し消防隊等によって消火されたケースは、2022年度の4,260件から2023年度には8,543件へと倍増しています。ごみ収集車の中で圧縮されたり、処理施設の破砕機で衝撃が加わったりすることで発火するのです。施設の復旧に数億円を要したケースや、ごみ回収が長期間止まったケースもあり、最終的な負担は住民に返ってきます。
捨てるときの手順
- 機器から電池を外せるものは外す。外せない一体型の製品は、小型家電回収の対象になることが多いです。
- 端子部分をテープで絶縁する。他の金属や電池と接触してショートするのを防ぎます。
- 自治体のルールに従って出す。危険ごみ・有害ごみ区分、拠点回収ボックス、家電量販店の回収など、自治体によって回収ルートが異なります。
- 膨張・破損した電池は、持ち込む前に自治体やメーカーに相談する。「迷ったら相談」が原則です。
ここは最近ルールが変わったポイントです。政府はモバイルバッテリー・携帯電話・加熱式たばこを「指定再資源化製品」に位置づけ、2026年4月から事業者による回収・リサイクルを義務化しました。背景には、廃棄物処理の現場で小型リチウム電池による火災が多発している事情があります。今後は販売店などの回収窓口が使いやすくなっていくはずです。
もし発火したら|3ステップの対処法
結論:「近寄らない → 収まってから大量の水 → 水没させて119番」の順番です。東京消防庁が呼びかけている手順で、負傷者は初期消火のときに最も多く出ているため、慌てて手を出さないことが何より重要です。
- 火花や煙が激しく噴き出している間は、絶対に近寄らない。燃えている電池に直接触れず、距離を保ちます。
- 勢いが収まったら、大量の水や消火器で消火する。
- 水を張ったバケツなどに水没させ、119番通報する。消火直後の電池は内部に電圧が残っており、再出火する危険があるためです。
リチウムイオン電池火災の怖さは再出火です。水没による温度低下まで含めて初めて「消火」だと覚えておいてください。
よくある質問
Q. モバイルバッテリーは何年くらいで買い替えるべきですか?
明確な年数の基準はありませんが、充電を繰り返すたびに内部の劣化は進みます。膨らみ・変形、充電中の発熱、充電時間の急な変化、充電できない――こうした劣化サインが一つでも出たら、年数にかかわらず使用を中止して買い替えを検討してください。なお、古いこと自体が危険なのではなく、充放電の繰り返しや高温環境による「劣化」が危険性を高めます。そのうえで、数年前の製品は現在より安全対策が不十分なものも多いと専門家は指摘しています。
Q. リチウムイオン電池は燃えるごみに出してもいいですか?
絶対にNGです。収集車・処理施設火災の最大原因です。自治体の回収ルートか家電量販店等の回収ボックスへ。膨張品は持ち込む前に自治体へ相談してください。
Q. スマホが充電中に熱くなるのは危険ですか?
ほんのり温かい程度は正常範囲ですが、持てないほど熱い・以前より明らかに発熱が強い場合は異常の可能性があります。充電を中止し、メーカーや販売店に相談してください。
Q. 発火したら水をかけてもいいのですか?
激しく火花や煙が出ている間は近寄らないでください。勢いが収まってから大量の水や消火器で消火し、水を張ったバケツに水没させて119番通報します。
まとめ|「充電・保管・廃棄」の3場面だけ意識する
- リチウムイオン電池火災は2026年、過去最多ペースで急増中。特に7〜8月の夏場が危険
- 充電は純正品で、寝具の上を避ける。出火の最多場面は「充電中」
- 夏の車内・直射日光下への放置は熱暴走の引き金
- 膨らみ・落下歴・発熱・充電不可は危険サイン。1つでも該当したら使用中止
- 一般ごみへの混入は絶対NG。自治体ルートか回収ボックスへ
- 発火時は「近寄らない→大量の水→水没→119番」
必要以上に怖がることはありません。リチウムイオン電池は現代の生活に不可欠な技術ですし、正しく扱えば十分に安全です。最後に、この記事を閉じる前にできることを4つだけ挙げておきます。
- 引き出しやかばんに、使っていない古いモバイルバッテリーがないか確認する
- 手持ちのバッテリー・スマホが膨らんでいないか見る
- 車内に置きっぱなしのバッテリー類がないか確認する(夏は特に)
- 不要な電池が出てきたら、お住まいの自治体の回収方法を調べる
このほか、暮らしの安全とお金にまつわる記事は暮らしとお金の記事一覧にまとめています。