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「自分が先に死んだら、妻の年金はいくらになるのか」。年の差夫婦や、妻の年金額が小さい世帯にとって、これは繰り上げ・繰り下げの損得以上に重要なテーマです。
結論から言えば、柱になるのは遺族厚生年金。そして意外に知られていない朗報と、2028年からの大きな制度変更の両方があります。2026年時点の制度で整理しました。
本記事は2026年7月時点の制度(2025年成立の年金制度改正法を含む)に基づく一般的な情報です。遺族年金の要件・金額は個別の加入記録や家族構成で変わるため、具体的な判断は年金事務所・社労士(社会保険労務士)等の専門家にご確認ください。
遺族厚生年金の基本
会社員・公務員として厚生年金に加入してきた夫(厚生年金の加入状況など一定の受給要件を満たす場合)が亡くなると、生計を維持されていた妻は遺族厚生年金を受け取れます。ポイントは3つです。
- 金額:夫の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4
- 遺族年金は非課税(所得税・住民税がかからない)
- 妻自身の老齢基礎年金とは併給可能(両方受け取れる)
「報酬比例部分」とは、夫の年金のうち現役時代の給料に応じて決まる部分(=厚生年金部分)のこと。全員共通の老齢基礎年金は含みません。
朗報:夫が繰り上げ受給していても遺族年金は減らない
見落とされがちな重要ポイントです。夫が60歳などで老齢年金を繰り上げ受給し、24%減額された年金を受け取っていたとしても、遺族厚生年金は減額前の本来額をもとに計算されます。
繰り上げのデメリット(減額)が及ぶのは夫自身の老齢年金だけで、残される家族の遺族保障は毀損されません。「繰り上げると家族の年金まで減るのでは」という心配は不要です。繰り上げ受給そのものの損得は年金を60歳から前倒し+S&P500取り崩しで暮らす設計の記事で詳しく検討しています。
💡 繰り下げの場合は?
逆に夫が繰り下げて増額していた場合も、遺族厚生年金は増額前の本来額で計算されます。繰り下げの増額は遺族には引き継がれません。
妻が65歳以降に受け取る場合:「自分の年金優先+差額」ルール
65歳以降は、妻自身の老齢年金と遺族厚生年金の併給調整(もらいすぎを防ぐ調整)が入ります。仕組みは「まず自分の老齢厚生年金を受け取り、遺族厚生年金は本来額との差額のみ支給」というものです。
モデルケース
夫:報酬比例部分が年120万円(月10万円)→遺族厚生年金の本来額は年90万円
妻:厚生年金に加入しながら働き続け、65歳時点で自身の年金が基礎83万円+厚生50万円
| 内訳 | 年額(概算) |
|---|---|
| 妻自身の老齢基礎年金 | 約83万円 |
| 妻自身の老齢厚生年金 | 約50万円 |
| 遺族厚生年金(差額分:90万−50万) | 約40万円(非課税) |
| 合計 | 約173万円(月約14.4万円) |
夫の死後も、妻は「自分の年金+夫の遺族厚生の差額」を終身で受け取れる仕組みになっており、このモデルケースでは月14万円台となります。
なお、妻自身の老齢厚生年金が夫の遺族厚生年金(3/4)を上回る場合、差額はゼロとなり実質的に自分の年金だけを受け取ることになります。共働きで妻の厚生年金が大きい世帯ほど、遺族厚生年金の「上乗せ効果」は小さくなる構造です。
ご自身の夫婦の数字でいくらになるか知りたい方は、当サイトの遺族年金シミュレーターで試算できます。使い方は遺族年金シミュレーターの使い方と実例の記事にまとめています。
補足:今の現役世代の妻に「ない」もの
- 振替加算:1966年4月2日以降生まれは加算額ゼロ
- 経過的寡婦加算:1956年4月2日以降生まれは対象外
- 遺族基礎年金:18歳年度末までの子がいない場合は対象外
昭和世代に存在した各種加算は、現役世代の妻にはほぼ適用されません。その分、遺族厚生年金と妻自身の年金の設計がすべてになります。
2028年改正で何が変わる?
2025年に成立した年金制度改正で、遺族厚生年金の仕組みが大きく変わります。
子のない配偶者への遺族厚生年金は、死別時に60歳未満の場合、原則5年間の有期給付(期間限定の給付)になります。
現行制度と改正後を男女別に整理すると次の通りです。
| 区分 | 現行制度 | 2028年4月以降 |
|---|---|---|
| 女性(子なし) | 30歳以上なら終身支給 | 60歳未満での死別は原則5年の有期給付(※段階施行) |
| 男性(子なし) | 55歳未満での死別は支給なし | 年齢を問わず5年の有期給付 |
| 共通 | 男女で大きな格差あり | 60歳以上での死別は男女とも終身給付 |
※女性の有期化は施行当初は若い世代(40歳未満)から適用され、約20年かけて対象年齢を60歳未満まで段階的に拡大します。すでに遺族厚生年金を受給している人は現行制度のままです。
有期化された場合の代替措置
5年で打ち切りではあるものの、次の緩和策がセットになっています。いずれも2025年成立の改正法で導入予定の仕組みであり、給付水準などの細部は今後の政省令や運用で整理される可能性がある点に留意してください。
- 有期給付加算:5年間の給付額を現行より増額(本来額の約1.3倍水準とされる)
- 死亡分割:亡くなった配偶者の厚生年金記録の一部を遺族自身の記録に分割し、遺族自身の老齢厚生年金を終身で底上げ
- 継続給付:収入が低い場合や障害がある場合などは5年経過後も給付を継続
年の差夫婦は「死別時の妻の年齢」が分岐点
この改正が特に効くのが、夫婦の年齢差が大きい世帯です。妻が60歳を過ぎてから死別すれば従来通り終身給付ですが、妻が50歳代以下で死別すると(施行スケジュール次第で)5年有期+代替措置の世界になります。
つまり年の差夫婦では、死別のタイミングが遅いほど妻が60歳以降に死別する可能性が高まり、終身給付の対象となる可能性も高くなります。一方で早い時期の死別は有期化の対象になりうるため、遺族厚生年金だけに頼らず、民間保険も含めた遺族保障を見直しておく価値があります。わが家の遺族保障の整理は「家族を守るお金」全リストと安心度診断の記事にまとめています。
その他に受け取れるもの
- 未支給年金:亡くなった月分までの本人の年金で未払いのもの(遺族が請求)
- 夫が国民年金第1号期間の長い人だった場合は、要件により寡婦年金や死亡一時金の可能性(厚生年金中心の会社員世帯では通常出番なし)
まとめ
- 夫死亡後の妻の柱は遺族厚生年金=夫の報酬比例部分の3/4(非課税)
- 夫が繰り上げ受給していても遺族厚生年金は減額前の額で計算——繰り上げは遺族保障を毀損しない
- 妻が65歳以降は「自分の年金優先+差額支給」。モデルケースでは月14万円台が目安
- 2028年4月から、死別時60歳未満・子なし配偶者は原則5年の有期給付に(段階施行・既受給者は現行維持)。年の差夫婦は死別時の妻の年齢が分岐点
- 正確な金額は夫婦それぞれの「ねんきん定期便」と年金事務所での試算で確認を
制度は変わっても、「家族が困らないように備える」という目的は変わりません。遺族年金の仕組みを知ることは、その第一歩です。年金・退職準備の他の記事は退職準備カテゴリの記事一覧からどうぞ。
参考:日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)/厚生労働省 年金・日本年金機構関係