はじめに――「妻を扶養に入れておけば安い」と思っていた

「定年後も妻を扶養に入れておけば、健康保険料は1人分で済む」――会社員の感覚だとそう思いますよね。私もそうでした。でも調べてみると、国民健康保険(国保)には“扶養”という考え方がありません。収入のない妻も「加入者」として保険料に乗ってきます。

この記事の結論(先に言います)

私(52歳)が60〜65歳で無職になった場合、健康保険は「退職1年目は任意継続、2年目以降は国保」に切り替えるのが、我が家ではいちばん家計にやさしそうでした。理由は2つ。①任意継続なら妻を扶養に入れて妻の保険料を0円にできる、②退職1年目の国保は「前年の給与所得」で計算されるので高く出がちだから。そして2年目以降、所得が下がれば国保には“均等割の軽減”が効いて、逆に国保が安くなることが多いからです。

この記事では、歳の差12歳・妻が基本的に働かない我が家を例に、任意継続と国保の保険料を2026年度の仕組みで並べて比較します。「定年 健康保険 いくら」と検索して不安になっている、同じ40〜50代の方に届けばと思います。

1. 大前提:国民健康保険には「扶養」がない

会社員の健康保険(協会けんぽや組合健保)では、収入の少ない配偶者を「扶養」に入れれば、その人の保険料はかかりませんでした。

ところが国民健康保険には、この“扶養”の仕組みがありません。夫婦で加入するなら、2人とも「被保険者」として扱われます。妻に収入がなくても、保険料がゼロになるわけではないのです。

国保の保険料は、次の「区分」ごとに、所得に応じる「所得割」と、加入者1人あたり定額の「均等割」(自治体によっては1世帯あたり定額の「平等割」も)を計算し、合算して決まります。

区分内容
医療分医療費にあてる基本部分
後期高齢者支援金分後期高齢者医療制度を支える部分
介護分40〜64歳の加入者にかかる
子ども・子育て支援納付金分令和8年度(2026年度)から新設

妻の分は、まるごと「2人分」になるの?

ここがいちばん気になるところだと思います。妻に収入がなくても、均等割(1人あたりの定額)は人数分かかるため、世帯の保険料には妻の分が上乗せされます。これが「夫婦2人分払う」と言われる正体です。ただし、次の章で説明する軽減制度があるため、実際の上乗せ額は所得によって大きく変わります。

補足

請求は世帯主あてに1通でまとめて届くことが多いですが、中身は夫婦2人分を含んでいる、と考えると分かりやすいです。

2. でも諦めるのは早い――低所得世帯は均等割が7・5・2割軽減される

「妻の分も乗るなら高いんだろうな…」と落ち込む前に、知っておきたいのが軽減制度です。

世帯の所得が一定以下なら、均等割・平等割が自動的に減額されます(申請不要。住民税の申告は必要)。令和8年度(2026年度)の判定基準の目安は次の通りです(自治体により細部が異なる場合があります)。

軽減割合世帯の所得の目安
7割軽減世帯の総所得が43万円以下
5割軽減43万円+31万円×(被保険者数)以下
2割軽減43万円+57万円×(被保険者数)以下

退職して年金を受け取る前の時期は、世帯の所得がぐっと下がります。すると妻の均等割も7割・5割などで軽減され、上乗せ額は思ったほど大きくならないケースが多いです。制度の仕組みを踏まえれば、過度に不安がる必要はありません。

注意:軽減の判定には「世帯主の所得」も含まれます。世帯主に一定の所得があると軽減されないことがあるので、退職後の世帯所得で判定される点は要確認です。

3. 【比較】任意継続 vs 国保|退職1年目と2年目以降でこう変わる

私が60〜65歳で無職になった場合(妻は専業・子は独立済みとして夫婦2人で想定)を、2026年度ベースで並べます。

任意継続のしくみ

退職後も元の会社の健康保険に最大2年継続できる制度。会社が負担していた分も自分で払うため、在職中より高く感じます。ただし保険料には上限があり、妻を扶養に入れれば妻の保険料は0円です。

モデル比較表

項目 任意継続(最大2年) 国保・退職1年目 国保・2年目以降
保険料の基準 退職時の標準報酬(上限あり) 前年(在職時)の所得 下がった所得(年金前)
妻の保険料 扶養=0円 均等割が加算(軽減前) 均等割が加算(軽減が効きやすい)
月額のイメージ 約3〜3.5万円(夫婦分・ほぼ一定) 約5万円〜(所得次第で上限近くも) 約1〜2万円台まで下がることも
特徴 前年所得が高い時期に強い 前年給与が反映され高くなりがち 軽減で大きく下がる可能性

ここがポイント

  • 退職1年目は、国保が「前年の給与所得」で計算されるため高く出やすい。この時期は任意継続のほうが安いことが多い。
  • 2年目以降、所得が下がると国保には軽減が効き、逆転して国保が安くなることが多い。
  • 妻の分(均等割)は国保にしか乗らないが、低所得なら軽減で圧縮されるため、任意継続との差は思ったほど大きくならない。

4. 「前年所得の罠」と、1年目は任意継続→2年目は国保という戦略

国保でいちばん注意したいのが前年所得の罠です。国保は前年の所得で計算されるため、退職直後(=前年は給与があった年)は保険料が高く出ます。会社員時代の収入が、辞めた後の保険料に反映されてしまうのです。

そこで現実的な戦略がこれです。

時期選ぶものねらい
退職1年目任意継続前年所得が反映される高い国保を回避する
2年目(または任意継続を抜けるタイミング)国保へ切り替え所得が下がった状態で試算し、安い方へ

任意継続は2022年以降、本人の希望で途中脱退できるようになっています。「とりあえず1年目は任意継続、所得が下がったら国保へ」という乗り換えがしやすくなりました。

大切:必ず、退職前に「会社健保の任意継続の見込み額」と「役所の国保の見込み額」の両方を試算してもらい、比べてから決めましょう。

5. 歳の差夫婦の注意点(介護分・75歳で夫婦の制度が分かれる)

12歳差の我が家ならではの注意点も整理しておきます。ここは歳の差夫婦が見落としやすいポイントなので、特に押さえておきたい部分です。

  • 介護分:40〜64歳の加入者には介護分が上乗せされます。私(60〜64歳)も妻(48〜53歳)もこの年代なので、夫婦とも介護分がかかります。私が65歳になると介護保険は別建て(第1号)になり、国保とは別に納めます。
  • 75歳で制度が分かれる:75歳になると後期高齢者医療制度へ移ります。歳の差があると、私が先に後期高齢者医療、妻はまだ国保、というように夫婦で別々の制度に入る時期が生まれます。
  • 上限額(賦課限度額):国保にも上限があり、令和8年度(2026年度)は合計113万円(令和7年度の109万円から引き上げ)とされています。所得が高くてもこれを超えません。退職1年目に所得が高い場合の“天井”として覚えておくと安心です。

6. 我が家の結論と、定年前にやっておくこと

数字を並べてみて、我が家の方針はこう整理できました。

我が家の方針

退職1年目は任意継続、2年目以降は国保を再試算して安い方へ

「妻を扶養に入れて1人分」は会社の健保でしか成立しない。ただし国保でも軽減があるので、低所得期の“妻の分”は思ったほど高くない。

定年前にやることリスト

  1. 退職前に、会社健保へ「任意継続の保険料見込み額」を確認
  2. 役所の国保窓口で「退職後(前年所得反映)」と「翌年以降(所得減)」の両方の見込み額を試算依頼
  3. 妻・自分の介護分、世帯の軽減判定(世帯主所得を含む)を確認
  4. 高い・苦しいと感じたら、減免・納付猶予の相談(退職・収入減も対象になり得る)

まとめ

国民健康保険には、会社の健康保険のような「扶養」の仕組みはありません。定年後に夫婦で国保に入るなら、収入のない妻も加入者として保険料(主に均等割)が乗ります。これが「夫婦2人分払う」と言われる理由です。

ただし、低所得世帯には均等割の軽減(7割・5割・2割)があり、退職して年金前の所得が低い時期なら、妻の分は思ったほど大きくなりません。さらに、退職1年目は前年の給与所得で国保が高く出るため、1年目は任意継続でしのぎ、2年目以降に国保へ切り替えるのが現実的です。

保険料は自治体・年度・前年所得で変わります。最終的には、退職前に会社健保の任意継続見込み額と、役所の国保見込み額の両方を試算してもらい、比べて決めるのが確実です。早めに数字を押さえておけば、安心して60代を迎えられます。

出典

  • 厚生労働省「国民健康保険制度」
  • 各市区町村「国民健康保険料の計算方法/軽減について」(金額・料率は自治体により異なる)
  • 全国健康保険協会(協会けんぽ)「任意継続被保険者制度」
  • 厚生労働省「令和8年度 税制改正の概要」(軽減判定基準の改定)
免責事項:本記事は筆者(金融・流通系のインフラ保守に従事)の家計シミュレーションをもとにした一般的な情報提供であり、特定の制度判断・金額を保証するものではありません。保険料・制度は自治体や年度、各健康保険組合の取り扱いにより異なります。実際の手続き・金額は、お住まいの市区町村、加入先の健康保険組合の公式情報でご確認ください。