「タイム・イズ・マネー(時は金なり)」

この言葉の本当の意味がわかったのは、投資を始めて20年以上たった、50代になってからでした。

私は昔、個別株で負け、信用取引で負け、デイトレードで負けて、市場から退場した人間です。それが今は、NISAでS&P500のインデックスファンドを10年以上ただ積み立てて、複利の効果を実感しています。

💡 この記事の結論(先に要点だけ)

  • 投資で最も価値のある資源は、手法でも銘柄でもなく「時間」
  • 複利は続けた人にしか実感できない。そして実感が行動を変える
  • 失った時間は取り戻せないが、子どもに「時間」を渡すことはできる

今回は、その遠回りの話を書きます。同じ景色を見ている40〜50代の方に、何かひとつでも持ち帰ってもらえたら嬉しいです。

個別株 → 信用取引 → デイトレード → 退場

私の投資歴は、絵に描いたような転落コースから始まりました。

まず個別株で負け、取り返そうと信用取引に手を出してさらに負け、今度は張り付いて勝負だとデイトレードに向かい、相場の下落で大きな損失を出して、市場から退場しました。このあたりの生々しい顛末は損失277万円・信用取引で市場から退場した失敗談に書いています。

身銭を切って、骨身に沁みた当時の結論はこうです。

「素人が売り買いのタイミングを当て続けるなんて無理だ。投資は、投資のプロに任せるべきだ」

証券会社のポスターが「読めなかった」話

実は私、仕事で証券会社に出入りする機会がありました。

そこには投資信託の案内ポスターが貼ってあって、「毎月コツコツ積み立てると、20年後にはこれだけに」といったグラフが載っている。何度も目にしていたはずです。

でも当時の私には、あれがまったく良いものに見えなかった

理由は今ならわかります。人間の直感は足し算でできているからです。「年5%」と聞くと、頭の中で「100万円が105万円か」と足し算で処理して、「しょぼい」で終わる。それが20年続くと掛け算で約2.6倍になる——年7%なら約3.9倍——この複利の感覚は、直感には入っていないんです。

しかも当時の私はデイトレードで、1日に数%動く世界にいた。そんな人間に「年に数%」は、退屈を通り越して止まって見えました。

ポスターの中身は、当時も今も同じです。変わったのは、見ている私のほうでした。

「数%の重み」に気づいた2つの理由

市場に負けて退場した私が、なぜ「年数%」の価値をわかるようになったのか。理由は2つあります。

1つ目は、負けた経験そのもの

デイトレードで市場に勝ち続けることがどれほど難しいか、身銭で知ったからこそ、「市場平均に連動するリターンを、長期で受け取り続ける」ことの重みがわかる。もちろんインデックス投資でも元本割れのリスクはあり、リターンが保証されているわけではありません。それでも、市場に「勝とう」として負け続けた人間には、市場に「乗る」という戦略の凄みがわかるのです。負けたことがない人には、年数%は永遠に「しょぼい数字」のままかもしれません。

2つ目は、学び直したこと

私の場合は「お金の大学」という本を読んで投資・保険・家計を見直したことがきっかけでした。ただ、正直に言うと、そこで得た知識自体は目新しいものではなかったんです。複利も、長期分散投資も、あのポスターに書いてあったことと同じ。

違ったのは、「これは自分の話だ」と受け取れる形で提示されたこと。知識は昔からずっとそこにあって、私が受け取れる状態になったときに、ようやく届いた。そういう順番でした。

インデックス投資を10年続けて実感している3つのこと

退場から時間を置いて、私はインデックスファンドの積立投資で市場に戻りました。今はNISAでS&P500(eMAXIS Slim 米国株式)を積み立てています。

10年以上続けて、実感していることが3つあります。

① 複利は「ある時点から」効いてくる

積立の最初の数年は、残高≒入金額。正直、貯金と変わらない感覚です。

ところがある時点から、「増えた分がさらに増える」フェーズに入ります。私の場合は10年以上続けた頃から、含み益の増減が月の積立額を超える月が出てくるようになりました。この感覚の変化は、シミュレーションの数字をいくら眺めても得られません。続けた人だけが体感できるものです。

② 売り買いで悩まなくてよくなった

私にとって、これが最大のメリットでした。

デイトレード時代は、ポジションを持っている間ずっと値動きが頭から離れませんでした。インデックスの積立は、買うタイミングも売るタイミングも考えない。ただ放置するだけ。

インデックス投資のメリットとして「手数料が安い」「分散が効く」はよく語られますが、経験者として言わせてもらうと、一番大きいのは精神のコストがゼロになることです。

③ 実感が湧いたから、積立額を増やせた

複利の効果を実感できたことで、私は積立額を月3万円から5万円に、少し無理をして増やしました(月3万円と5万円の積立で10年後・15年後がいくらになるかの早見表も作っています)。

理屈では「早く多く入れるほうが有利」と誰でも知っています。でも、実感が伴わないと、家計から追加の2万円を引っ張る決断はできない。知識は行動を変えないが、実感は行動を変えるんですね。

家族に勧めるなら、S&P500ではなくオルカン

子どもたちにも積立投資を勧めています。ただし、勧めているのは自分と同じS&P500ではなく、オルカン(全世界株式)です。

矛盾しているように見えますが、理由があります。

自分のリスクは自分で取れる。でも、人に勧めたものの責任は取れない。

自分用:S&P500 子ども用:オルカン
運用期間 残り10〜20年 40〜50年
前提となる判断 「米国が勝ち続ける」を自分の責任で引き受ける どの国が勝つかを当てなくていい
判断が外れたとき 自分で見直しが必要 時価総額比率で自動的に中身が入れ替わる

オルカンも中身の6割前後は米国株なので、リターンは大きくは変わりません。違いは、「間違えたときに自動で直る」仕組みがあるかどうかです。私の残り運用期間なら、米国に賭ける判断は合理的だと思っています。でも子どもたちの運用期間は40〜50年。その長さで「どの国が勝つか」を今当てるのは無理筋で、だったら「当てなくていい商品」を渡すのが親として誠実だろう、と。

私自身がS&P500とオルカンをどう考えているかは、5倍になるファンドがあってもS&P500とオルカンを続ける理由で詳しく書いています。

結論:時間がお金を生む

ここまで書いてきて、あらためて思います。

仕事の世界の「タイム・イズ・マネー」は、自分の時間を差し出してお金に変えるという意味です。私の32年のサラリーマン人生はこちら側でした。そしてデイトレード時代の私は、投資の世界でまで同じことをやっていた。画面に張り付き、時間を差し出して、利益を取りに行っていたんです。

インデックスの積立に変えて、意味が逆転しました。自分は何もしない。時間そのものが働いて、お金を生んでくれる。

時間が「敵」(値動きの恐怖、機会損失)から「味方」(複利のエンジン)に変わった——私の投資人生で起きた一番大きな変化は、リターンの数字ではなく、これでした。

一番の後悔と、その使い道

正直な後悔をひとつ。「今になってようやくわかった」ということは、一番の資源である時間を、気づいたときにはだいぶ使ってしまっていた、ということでもあります。複利にとって、失った10年20年は取り返しがつきません。

でも、この後悔にはひとつだけ使い道があります。

子どもたちに、時間を渡すこと。

子どもたちが20代から積立を始めれば、私が使えなかった30年、40年ぶんの複利が、そのまま彼らのものになります。お金を遺すことより、「時間を味方につける方法」を遺すことのほうが、ずっと価値が大きい。私がオルカンを勧めているのは、要するに時間の相続なんだと思います。

若い頃の私は、お金を増やす「方法」ばかり探していました。でも、本当に足りなかったのは方法ではなく、時間を味方につける考え方だったのかもしれません。

私が投資で一番高く買った教訓は、「時間」でした。

あなたの時間は、いま敵ですか、味方ですか。

もし今、遠回りをしているように感じていても、その経験はきっと無駄になりません。NISAや積立投資の始め方・考え方はNISA・投資入門の記事一覧にまとめています。明日のために、一歩ずついきましょう。

それでは、また次の記事で。

※ この記事は個人の経験と考えを記したものであり、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。投資には元本割れのリスクがあります。過去の運用実績は将来の成果を保証するものではありません。最終的な投資判断はご自身の責任でお願いします。